CSR社会貢献
運送会社を経営し酪農家の顔も うちの会社!社長さんに聞く 洛友商事・松永道幸社長 |
下関市富任町に本社を構える運送業、洛友商事。松永道幸社長(75)は「もう第一線を退く身なので取材は遠慮したい。運送会社は市内に約130社、県内に約780社あるのだから。独立直後にお世話になった大恩人もいらっしゃるし」と当初は取材を断り続けた。 山口・九州北部を中心に6カ所の事業所にトラック約200台を所有し、精密機器運送も担う。同市長府扇町では造船所も経営。地元企業として胸を張って紙面に登場してほしい―と再三にわたって取材を申し込んだところ、ようやく首を縦に振った。 ただ。「私はもうお一つの仕事に携わっている。そちらの業界について訴えたいことがある。山口新聞を通じて、県民の皆さまに知っていただきたい現状がある」と切り出した。 もう一つの仕事とは山口県酪農乳業協会の副会長。酪農組合の首長も務め、自らも約30頭の乳牛を飼育する小酪農家でもある。 「日本の牛乳は世界一高いと言って過言ではない。米国の2倍の値段。高い牛乳を提供して申し訳ないと思っている。しかし、高価な牛乳を提供しているにもかかわらず、酪農家は瀕死の状況にある」という。 円安とウクライナ侵攻の影響で飼料代は高騰。農林水産省によると、この2年余りの間に約1・4倍に跳ね上がったが、価格転嫁できない状況が続く。「今年に入って自殺者が出たり、自己破産に追い込まれたりした酪農家は全国に何百例もある。 1リットル150円の牛乳を作るのに、「餌代などは200円ぐらいかかる。酪農家は廃業するか、破産するかのどちらかしかない。餌代のために借金して、また借金という状態。ほとんどの酪農家が数千万円の飼料代の借金を抱えている。体力のある大手でも、作れば作るだけ赤字が出るのだから、いずれは立ち行かなくなる」と指摘する。松永社長は酪農組合の首長も、無報酬で5年前から引き受けている。 酪農農家の高齢化、後継者不在の現状も踏まえて打開策を探った。「高い乳価もさることながら、酪農家を救うことに専念しなければという使命感に駆られている。酪農家を救うには、まず乳牛の飼育をやめること」。やめた後で、できることは―。牛を放牧する広い土地を活用して太陽光発電というアイデアにたどり着いた。パネルさえ設置すれば、高齢化した酪農家も体力的な不安はなく、発電量で借金が返せるという考えだった。 だが、農地法という壁が立ちはだかり、農地から転用できないか関係機関と交渉している。太陽光パネルを設置して、その下で放牧する案も考えたが、「牛は飼料を食べなければ、牧草だけでは乳は出ない。また飼料代がかかる。パネル周りの草を誰が刈るのかという問題もある」と苦悩する。「やはり酪農家は自己破産するか、莫大な借金と転用の利かない広大な農地を抱えたまま廃業するしかないのか」―。行政にも相談しているが、農地法の壁は厚いという。 洛友商事は、長男の松永正州専務が後を継いで、社員たちがもり立ててくれると期待する。一方、酪農界は「行き詰っている。斜陽産業。軟着陸をどうするか考えながら、私は余生を送る」と口を閉ざした。(津田雅浩) |
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